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 この負けからズルズル負けが込んだ。  かろうじて勝ち越しにはなったものの、前頭への返り咲きは、二場所待たねばならなかった。  勝った秋津の方が悲惨で、翌日から休場し、二度と土俵には戻らなかった。  廃業の翌朝バスケのボール持って、うちの部屋に来た。  河川敷行こうや。  高校時代の目で俺を誘う。  俺は頷き、おかみさんに挨拶してちょっと出てくると伝えた。  誰でも使える河川敷のゴールに、スリーポイントを決め続ける。  漫画とかなら当たりあって、旧交を温めあうとこだが、互いに百キロを超す巨体だ。  もみ合うだけで大事になる。  さすが必中のスリーポインター。  一球たりとも外さない。  腕が痛くなってきて、一球、二球と外れが増えていき、ついに俺はギブした。 「わかったわかったわかった。俺の負けだ。完敗!」 「ザマーミロ!」  最後の一投がずさっとネットを揺らすと、秋津は高校生の頃と同じ笑顔で笑った。 「一生覚えとけよ。バスケも相撲も俺のが上だったんだ!」 「はいはい」 「はいはいじゃない。このクソッタレ! おまえが裏切らなきゃな、俺はいまでもバスケを…おまえと…」  声がくぐもる。  俺は黙ってる。  俺といっても駄目だったかもしれない。  そんなこと本人がいちばんわかってる。  わかっててなおここまでしないと納得できなかったんだよな。 「どうすんやこれから」 「関空行くわ。イギリスに医者一人キープしてんねん」 「治るんか」 「まさか。でも日常痛ないようにはしてもらえるらしい」  そんなにも… 「腕良かったら紹介したるわ」  俺に背を向け歩き出す。  今友が飛び去る。  しがらみを断ち切って。  潔いと、思った。
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