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六
さらに二年過ぎた。
大学を卒業した理奈は『JINK』をいったん辞めていたが、近くの会社で事務をしてるとのことで、今は客として来店してよくいる。
木曜と金曜によく現われるので俺も木金狙いで行く。
新しいバイトは気が利かず、気づくと理奈が立ち働いてる。
そんなところも愛らしかった。
愛だ恋だは残念ながら、平幕のうちはムリというもの。
早く出世してプロポーズだ! みたいな、俺は自分の人生で初めて、人参めいたものを自分に掲げたのだった。
両国の場所は荒れた。
東の横綱に早々に土がつき、千秋楽は俺を含む三人が優勝を争っていた。
勝っても優勝目のない一人加えて、二人二人、直接対決となり、俺はあの、 大関、盛光(さかりひかり)との対戦となっていた。
兄、雄修を潰し、俺と秋津から間接的にバスケの夢を奪った仇だ。
これまで不思議と当たることがなかったのは、示しあわせでもしたように、どちらかが、必ず休場になっていたからだった。
呼び出しがかかり、互いに土俵に立つ。
古傷だらけの巨漢は、蹲踞してさえ小山のようだ。
八卦ヨォイ!
残った!!
小山が俊敏に動いて、ぶちかましにくるところを、かわしてはたきおとしにかかったが、一瞬の隙をつかれてまわしをとられた。
万事休すか!?
その時。
この世の誰よりも至近距誰で、敵がこうつぶやくのが聞こえたのだ。
兄弟揃ってざまあないな。
かっとなった。
まきかえした。
そのままつり出して、もののように俵の外においた。
静寂。
軍配。
押し包む静寂。
次の瞬間、国技館は、怒号ともつかない歓声の嵐に包まれた。
東京辺のタニマチ袖に、賜杯手に、喜び勇んで『JINK』に駆け込むと、兄、修司~いや雄修~が理奈さんと、一番静かなボックスで、仲良くお茶していた。
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