第1章 プロローグ

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第1章 プロローグ

 澄み切った満点の夜空を1時間ほど眺めていると、宝石のような美しい流れ星が10個ほどは見ることができる。熟練した観測者であれば80個以上も見ることも可能だそうだ。実際には1日で2兆個の流れ星が地球に降っているのだ。その正体は宇宙空間に漂うチリの粒だが、中には大気圏で燃え尽きずに地球に衝突するものもある。  2013年2月15日、直径17mの小惑星が大気圏に突入し、火球となってロシアのチェリャビンスク州を襲った。火球は上空17km~50kmで爆発、複数の破片が地上に落下した。もしも空中で爆発せずに落下していれば、直径100mの巨大クレーターをつくるほど、周囲の町は壊滅的な被害を受けただろう。それでも空中爆発による衝撃波は凄まじく、南北180キロ、東西80キロにわたって大きな被害を受けた。  実は地球も海水と森林を取り除くと、クレーターだらけの惑星だ。確認されている衝突クレーターだけでも直径10m~160kmまで182個も残っている。  だが人類は、隕石衝突の回避対策などしてこなかった。ただ衝突しそうな彗星の観測をしているだけだ。その観測で地球に衝突する可能性がある小惑星を発見したのは、わずか2%にすぎない。残り98%は分からないのだ。だから観測できない小惑星が地球を襲う可能性は、誰にも否定できない。巨大隕石の衝突は私たちが生きているときに、あるいは次世代のときかもしれない。  人類の世界は、戦争と未曽有の自然災害に遭い続けながらも未来永劫、ずっと発展していくものと世界中の人々が思っている。この俺も、そう思っていた。いや、願っていた、というべきかもしれない。太陽の膨張で地球が焼かれる、その日が来るまでは。  だが以外にも早く、人類文明にも、賞味期限があったようだ。  チェスや囲碁の世界チャンピオンが人工知能のマシンと対戦して敗北したときに、この物語の暗黒の未来世界を暗示していたのだ。  自分で言うのもなんだが、川岸に転がっている朽ちた流木のような、初老の肉体が未来で再び蘇ることを願い、人体冷凍保存カプセルで長い眠りにつく前から人類が造り上げてきた文明消滅の日は、意外にも早く始まっていた。  そして、地獄のような暗黒の未来世界が、俺を待ち受けていた。  
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