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「どちらも中国で道教っていう宗教の中で仙人が住まう山って呼ばれている場所なんだけどね。蓬莱は蜃気楼の中にある山って言われてて、崑崙は仙界とも呼ばれてて八仙が住む山って言われてるんだったかなあ」
ゆっこが緩やかに笑いながら説明してくれるのに、私は思わず指をくわえて考え込んでしまう。
この山の本当の名前は最後まで知らなかったけれど、でも。
辰巳と一緒にいたって言う証に名前が欲しかった。
「崑崙、がいいんじゃないかなあ。だってこの山、八仙がつくったって言ってたし」
「本当に自分が体験したみたいに言うのね」
「あはははは……そうかもしんないね」
何度も何度も書き直して書き終えた小説の紙束を、私はそっと撫でた。
苦しくっても、悲しくっても、時にはやり切れなくっても、私は確かにこの山にいた。でも私の考えで行動なんて全然できなかった。
でも今は違う。私はこの世界で、ちゃんと私の人生を生きるから。何も知らなくっても能天気に笑っていた私からは卒業する。
「我愛?……」
「何?」
「ううん、言われて嬉しかった言葉を思い出してただけ」
こっちに帰って来て、どうにか中国語の辞書をネット検索でリスニングと合わせて検索しなかったら意味なんてわからなかった。
あんたの気持ちがわかったから、私はそれでいい。私は、アンタにもらった物を全部もらって、生きていくから。
私の人生は、まだまだこれからだ。
<了>
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