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序章
「で……きた」
俺はごくり、と唾を呑み込んで、書きあがったものを見た。墨を程よく吸い込んだ木簡は、既に木の感触がなくなってふやけてしまっている。替わりの木簡を使うのを惜しんで、間違った部分を剥いで剥いで書き込んだ結果がこれだ。
木簡に書かれた文字は、滑らかに滑り、文字と文字が絡み合い、術式を描いていた。その術式は術式と絡み合い、円を結ぶ。
この洞窟に閉じこもり、一体どれだけ経ったのか。
俺はちらり、と洞窟の外を見た。
もう何度も昼と夜を繰り返した気がするが、今は昼のようだった。洞窟からはほんのわずかだけ日差しが注ぎ込んでいるのがわかる。
俺は皿の脂に火をつけた。普段なら昼間から灯りをつけるなんて贅沢はしないが、今日は特別だ。
俺が読んだ巻物やら机子やらをどけ、空いた場所をつくる。
そこに俺は剣の柄を立てた。地面を少しえぐる。そしてそのまま、がりがりと術式を地面に書き移し始めた。
召喚術に必要なもの。
ひとつ。火水木金土の理を持って循環をつくること。それが歯車となる。
ひとつ、陰陽の理を持って対象とこちらを繋げること。それが道となる。
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