第2章 対決

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「実は、今回の開発とは別に、水素ガスを水に溶解して飽和水素水を作る新方式による活性水素水発生装置のアイデアを思いつき、特許を出願したところ、大手の医療機器メーカーが飛びついてきまして、何でも現在、人工透析に使用している純水よりも、この装置で発生させた水の方が、エンドトキシンという体に害を及ぼす菌の繁殖を抑制する効果があるということが某研究機関にて判明したそうで、実用化に向けての研究開発のスポンサーとして3億円の資金を出してもいいという話が舞い込んできたのです。ですから、この話を銀行に持っていき、暫くは繋ぎ融資を受け、そこから御社には返済をしようかと思っております」末永は自分に陶酔しきっているかのように熱弁を振るった。 「まあ、そういうことですので、ここは末永社長が提案する分割方式で合意と言うことにしませんか」西崎弁護士はここで手打ちにしたいという様子であった。 「角田君、今井君、これほどまで言っているんだ。ここは末永さんを信用しようじゃないか」根っからの技術者で人の良い山口部長は、末永にすっかり乗せられている様子であった。 「そうですね。ここは、この提案で合意しませんか、全く回収できないよりはましだと思いますし、合意書も作成し最後まできちっと返済してもらいましょう」我らが伝道師、吉村弁護士のその言葉と、末永の元妻の口座に金が流れたと言う確定的な証拠が無い以上、これ以上の交渉は無理だと判断し、我々も渋々合意書の作成に至った。その合意書には、無論、当方も刑事告訴はしないという事項が織り込まれた。山口部長は、やれやれという顔をしていたが、僕と角田先輩は、不安が拭いきれなかったのは事実である。  そうして、約束通り、毎月末永から30万円は我が社の口座へ振り込まれてきた。一見この案件はこれで解決したかのように見えた。  ところが、半年たったあたりから振り込みがぱったりと止まった。僕が、末永に問い合わせをすると、例の開発製品が佳境に入っておりお金の融通が利かなくなっているから少し待ってほしいとの回答であった。しかし、それから3か月たっても一向に振り込みはされなかった。それどころか末永とも連絡が取れなくなっていた。 「またしてもやられたな」角田先輩が僕に呟いた。
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