第3章 決着

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 僕は恐る恐る近くにいた若い刑事に「あのー、私、岐三工業の今井と申します。本田課長にお会いしたのですが」と尋ねると、「ちょっとお待ち下さい」と言い、その若い刑事は、制服の警察官を前に立たせ怒鳴っている刑事のところへ行った。(げっ、まさかあの強面の刑事が本田課長?)本田課長から指示を受けたのか取り次いでくれた若い刑事が、「こちらへどうぞ」と連れて行かれたところが、取調室であった。テレビドラマでよくやっている刑事ものの取調室そのものであった。若い刑事は「ここでお待ちください」と言いうとその場を立ち去った。  この取調室には双眼鏡がいくつも置いてあった。(これで、刑事さん達は張り込みとかしているのだろうなあ)と思いながら待っていると、本田課長が現れた。 「やあー、お待たせいたしました。本田です」と僕に名刺を差し出した。僕も「本日は、お忙しいところ誠にありがとうございます。岐三工業法務部の今井と申します」緊張しながらも、すかさず名刺を差し出した。本田課長の名刺には、警部と書いてあった。 「概要は石田さんから聞いておりますが、詳細をお話し下さい」先程とは打って変わって穏やかに話しかけてきた。  僕が今までの経緯を分厚い資料にしたものと、概略として纏めたレジュメで話し終えると、本田課長は「うーん、確かに悪質ですな。とりあえずその研究開発委託費の行方を調べてみますから、2億円を振込んだミツエンタープライズの口座を教えて下さい。それから、お持ちいただいたこの資料は預からせていただきます。知能犯係の刑事とも検討してみますので」そう言うと僕に自分の携帯電話の番号を教えてくれた。警察は全く相手にしてくれないと思っていただけに、本田課長の対応はとても嬉しかった。  そうして、2週間が経った頃、本田課長から連絡が入り検討結果を聞くことになった。  例によって刑事課の取調室に通された。 「お金の流れが掴めましたよ。研究開発委託費の大半はあなたの推察通り、末永の元妻名義の口座に流れてますな。間違いなく差し押さえを逃れる為にやったのでしょう」本田課長は僕に見えないように気を配りながら銀行から取り寄せたという通帳の支出明細資料を眺めて言った。
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