第3章 決着

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「お金はまだあるのですね?」僕の質問に本田課長は言いにくそうに、「そうですね、お宅らが取り返したいと言っている金額はありますね」と本来は教えられないだろう情報をさり気無く教えてくれた。「そうですか、ありがとうございます」差し押さえるお金があると分かり僕は少し希望を持つことができた。  しかし、そんな僕の細やかな喜びも束の間、本田課長の顔が急に険しくなった。「ところで、業務上横領罪と詐欺罪の告訴の件ですが、知能犯係の刑事とあなたから預かった資料をじっくり読み検討したのですが、やはり立件は不可能ですな」 「研究開発委託費がミツエンタープライズから末永の元妻名義の口座に流れているということは、明らかに私的流用ですよね。それでも業務上横領罪での立件は不可能なのですか?」 「あなたの言う通り、私的流用と言う事では刑法の条文上、業務上横領罪の適用は考えられますが、民事訴訟における判決以後、一旦は合意書によって返済の意思を示し、返済も短期間ではありましたが行われたわけですから。それに、元妻の口座へお金が流れていても離婚していますので法律上は他人です。善意の第三者を主張するでしょうし、偽装離婚であるという証拠は有りません。とにかく業務上横領罪での立証は難しいです」 「やはり詐欺罪でも難しいのですか?」僕はダメもとで聞いてみた。 「詐欺罪の立証の方が更に難しいですね」本田課長は険しい表情で答えた。 予想はある程度していたのだが、僕は悔しさでいっぱいであった。お金の在りかが分かったのに手出しができないことの腹立たしさが込み上げていたのだ。そんな僕の落胆ぶりを見ていた本田課長が、「あなたは、本当に真っ直ぐな方ですね。数年前、総会屋対策に奔走していた石田さんもあなたの様な熱い目をしていましたよ」と石田次長の話を持ち出した。 「えッ、あの石田次長が・・・」僕は、石田次長の日ごろのあのクールさから意外性を感じずにはいられなかった。 「そうです。石田さんも今のあなたのように会社を守ろうと、必死な思いで私に質問していました。あなた方は、ある意味、会社における防人なのですね」そう言うと、本田課長は暫く目を瞑ると腕を組みながら口を真一文字にして何やら考えていた。
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