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「今井さん、研究開発委託費の返済を諦めてでも末永を告訴する覚悟はありますか?」本田課長は目を開くなり僕にそう問いかけてきた。
「構いません!平気で人を騙すような奴は許せません!」僕は真剣な眼差しで本田課長の目を見た。
本田課長は僕に鋭い目を向けると、「それでは今から独り言を言います。これは住専処理問題の時、債権回収で使った手なのですが・・・。岐三工業が研究開発委託費の返済費用を債権とする債権者として、ミツエンタープライズの破産申立てを裁判所に行うのです。そうすれば、裁判所が破産管財人を選任いたします。これはたいがい弁護士が選任されるのですが。その破産管財人がミツエンタープライズの財務状況等を強制権限で調べることになりますので、全てが明らかになります。そうなれば研究開発委託費であるところの債権者の財産を末永が元妻名義の口座に流したという事実、即ち差し押さえを逃れる為の隠匿あるいは譲渡行為が発覚するでしょう。そうなれば、社長である末永は破産法第265条「詐欺破産罪」で告訴されることは逃れられんでしょう。と言うことは、確実に末永は追い込まれるでしょうな」本田課長は起死回生のウルトラC的アドバイスをしてくれた。
「破産法の「詐欺破産罪」ですか。それは知らなかった!本田課長、どうもありがとうございます!ありがとうございます!」僕は何度も何度も本田課長にお礼を言っていた。
そんな僕に本田課長はニコニコしながら「まあ、後は頑張りなさい」と声を掛けて見送ってくれた。
僕はその足で吉村弁護士の事務所へと駆け込んだ。
「いやー、その手がありましたなぁ。早速、末永宛に通知書を送りましょう」吉村弁護士は、膝を叩いた。
こうして、西崎弁護士経由、末永宛にミツエンタープライズにおける債権者として裁判所に破産申立てをする旨を書いた通知書を送った。
これにはさすがの末永も相当驚いたらしく、すぐに回答書が送られてきた。西崎弁護士にもこのまま裁判所に破産申し立てをされると「詐欺破産罪」で捕まる可能性がでてくると忠告されたのであろう。中身は、残金の7820万円の返済に速やかに応じるとのことであった。僕は、あまりにもあっさりと決着がついてしまい、キツネにつままれたような気分でありつつも末永の慌てふためく顔が目に浮かんだ。
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