第3章 決着

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 本田課長の思惑通り、末永は今回だけはさすがに観念したらしく、約束の期日に残金の7820万円は全額きっちり振り込まれ、ようやく永きに渡った研究開発委託費残金回収劇も一件落着となった。  こうして起死回生の逆転で奇跡的に解決できたのも西町警察署刑事課 本田課長のお蔭だと、僕は感謝の気持ちで一杯であった。僕は、刑事事件に関しては、弁護士よりも現場で場数を踏んできた本田課長のような刑事の方が、よほど頼りがいがあるとしみじみと思ったのであった。  これより5年後、大手商社をスポンサーに新規事業としてLEDの照明器具分野に進出したミツエンタープライズは、LEDを使用した街灯で雨水による漏電と言う大市場クレームを引き起こし遂には倒産したそうである。因果応報というか悪が栄えたためしはないということだ。この時はまだそんなことを知る由もなかったのだが。 「石田次長、西町警察署の本田課長を紹介していただきありがとうございました。本田課長のご助力のお蔭で残金の回収をすることができました」僕は本田課長という素晴らしい刑事を紹介し手柄を譲ってくれた石田次長に心の底からお礼が言いたかった。 「今井君、山口部長の辞職は取り下げられたよ。あと新製品も無事間に合いそうだ。山口部長が、君たちには感謝の気持ちでいっぱいだ、新規ラインが立ち上がり、落ち着いたら君たちに是非ともお礼がしたいと言っていたよ。それと、西町警察署の本田課長にも今度一緒にお礼を言いに行こう」石田次長のその言葉に僕も角田先輩もホッと胸を撫で下ろした。 「ところで今回はいい勉強になったなぁ。自分で分からないことはその道の専門家に直接聞く。これが一番だ。だから、教えてもらえるよう誠実で人に信頼される人間にならなければならない。なぁ、今井君よ」石田次長も心なしか嬉しそうな眼をしていた。 「はい!そうですね。これからも精進します!」僕はこの冷静沈着な石田次長が実は相当な熱血漢だと言うことを本田課長から聞かされていただけに、余計気持ちが通じた。それとこの一件で、本田課長が言っていた“会社の防人”としての自覚と誇りを持つことができた。  そして、僕は石田次長に深々と一礼をすると晴れやかな気持ちで自分の席に戻った。 席に戻りニヤニヤしている僕に、意味深な笑みを浮かべた角田先輩が後ろから肩をポーンと叩いてきた。
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