第1章 事件勃発

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「おい、今井君、君もこちらへ来て一緒に話を聞いてくれ」突然、石田次長に呼ばれた僕は非常に厄介な事件に巻き込まれそうな嫌な予感がした。  山口部長の話によると当社の第二工場で新しく立ち上げることになっている自動車のエンジン回り電子部品は最近のメカトロ二クス化により非常に精度要求が厳しく残渣(微細な鉄粉等の異物)量の洗い落としが必要不可欠となっている。そこで不純物を殆ど無くした超純水という水を精製して電子部品を洗浄する高性能洗浄機の試作機の開発を、技術士でもある大学の先輩に相談したところ、非接触ICカードの開発において知り合ったという先程のミツエンタープライズの末永を紹介され半年前に依頼するに至った。開発によって得られる特許も全て当社へ譲り渡してもらえるという条件が付いており、悪い話ではなかった。  ここの会社には5名の技術スタッフがいていずれも有名大学の理工系出身者だった。 ミツエンタープライズ自体は設計開発がメインで機械設備の製作は主に町工場の中富電機に依頼していた。社長の末永自身は技術者のような顔をしているが、高校出で口は達者だが設計は出来ない上に技術知識となると疑わしいものがあるそうだ。 末永とは違い、ミツエンタープライズの担当技術者である千賀は誠実で、技術知識も豊富に持っており、今回の高性能洗浄機の開発も彼によるもので、設計にも問題は無かったということで、千賀を信頼して洗浄機の研究開発委託契約書を交わしたというのだ。 もちろん、製作を依頼したという町工場にも出向き、製造の過程をチェックしながら進めていた。  ところが、洗浄機が6割がた完成に近づいたと思われた頃に、末永から研究開発の資金が底を付いたという知らせを受けた。 山口部長は部下である技術者3人を連れて末永に会いに行き、事情説明を受けた。 生産技術部の試算では6割がたの完成状況だからまだ8千万円は残金としてあるはずだと言及して、きちっとした試算表を作成したうえで山口部長のところへ説明に来るように求めた。その矢先、先程の電話で、実は株式投資に残りのお金を注ぎ込み失敗して資金ショートしてしまい、中富電機に支払うお金が滞って、高性能洗浄機の製作を途中で止められたということであった。
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