第1章 事件勃発

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慌てて中富電機の社長に聞いてみると着手金の3千万円は貰ったが、完成に向けて次の部品を買うためのお金を請求したところ、末永から支払いは待ってくれと言われたので止むを得ず銀行から1千万円借りて製作をつづけた。ところが、いつまで経っても残りの三千万円の支払いがなされないため、洗浄機の製作を断念せざる得なくなったということだ。中富電機の社長にも1千万円の借金を何とかしてくれと泣きつかれる有様。信頼していた技術担当の千賀を問い詰めても、「私も全く事情が分からないのですよ」と困惑している様子であった。  山口部長の話が終わると僕はミツエンタープライズと交わしたという研究開発委託契約書を見せてもらった。契約書の内容自体は問題ないのだが、残念なことに何かのトラブルが発生した時に保証をする保証人の項目がなかった。契約を交わす前に法務部へチェックを依頼してくれれば良かったのであるが、まさか、こんな事態になろうとは山口部長も想像していなかったのであろう。 「で、山口部長は法務部にどうしろと?」石田次長が切り出した。 「ラインの立ち上げが来年早々に迫っているので、ここで高性能洗浄機の製作を止めるわけにはいかん。中富電機から途中で止めた洗浄機を買い取り、うちの工機部に頼んで完成させてもらうよ。申し訳ないが、君たちには2億円全額とは言わない、1億、否、8千万円だけでも何とかミツエンタープライズから回収するようお願いしたい。こんなことで会社に大損害を与えたくない!よろしく頼む!」山口部長は我々に深々と頭を下げると、項垂れるように法務部を出て行った。 「今井君、今の話をまとめて吉村先生のところへ行って意見を聞いてきてくれないか」石田次長は銀縁の眼鏡を中指と親指でキザっぽく上にあげると、当社の法律顧問である吉村弁護士の事務所へ行ってアドバイスを受けてくるよう僕に指示した。 僕は少し気が重かった。実は、この吉村弁護士が苦手なのである。と言うのも、この人は何事も現実主義プラス正義感が人一倍強く、こちらの主張を押し通す姿勢は全く見られない、常に相手方との妥協点を見出し、平和的かつ友好的な紛争解決のやり方をするタイプなのである。
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