海辺

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海辺

その電話がなった時、私は彼の知らない男と海辺のホテルにいた。珍しく何度も何度も着信があったのでテラスからかけ直してみた。呼び出し音が鳴っている間、男が声を出したりしないか少し不安だった。 電話から知らない女の声が聞こえた。驚く私にその声は「境さんが救急搬送されました。連絡を入れてほしいとことづかっております。境さんはいまMRIに入っておりますが、お迎えに来ていただくことは可能でしょうか?」と話した。脳外科の看護師だった。「すぐ向かいます」と答え電話を切った。もちろんすぐに迎えに行きたいが男が納得するだろうか、と嘘の理由で帰ろうかとも思ったが正確に事情を説明し、帰りたいと言った。チェックインして1時間も経ってはいない、きっと男はまた不貞腐れるのだろう。そう思っていたが男は海に向かってぼそぼそと小さな声で「俺が悪い。俺が真波を愛したからこうなったんだ」と言っていた。どうしてこうも的外れなのだろう、だからこの男との未来を考える気にはならないのだ。 「ホテル代、私が払うから家に送って」 男の顔が曇った。 「もし無理ならタクシーを呼ぶ」 そう言う私の顔を見ている男の顔は腹立たしいのか悲しいのか判断がつきにくい表情だった。 チェックアウトを済ませ、男の車で病院へ向かった。
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