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トラウマ
朝、私を迎えにきて部屋へ入り体を重ねる。男は何度でも抱きたがった。私は何度でも受け入れた。疲れて私がうとうとしている間に男は買い物に行き私のための食事を作る。それを食べ、また抱き合い、彼の帰宅時間が迫るまで一緒にいた。男は私も男を好きなんだと思っているようだったが、なぜそう思うのか不思議だった。
私は一度として男のために何かをした事がない。好きだと言ったこともない。ただ抱き合っているだけで私は何もしない。
男はよく幼少時いかに両親から疎まれて育ったかを私に聞かせた。同情が欲しいのだろう、そう気付いていたが私はわざと反応しなかった。男はもう子どもではなく、両親とも和解していると言いながらも恨み言をはくのをやめなかった。
すぐにトラウマだのなんだのと言い始める。その時の私の顔はどんなだっただろう。
私は幼少時、母の浮気に激高した父に母とともに首を絞められ入院している。私はすぐに退院できたが、母は長い間入院していた。それでも両親は刃物が飛び交うような喧嘩を繰り返しながらも離婚せずにいた。飛んでくる刃物や灰皿から弟を守り、私の耳は鼓膜が破れ今も右耳は聴こえない。
両親と仲が悪いだけでトラウマだと騒ぐ男を小馬鹿にして見下していた。小さな男だ。
それでも私は男と会うことをやめなかった。
世の中でその男だけが私を求めているような気持ちになっていたからだ。くだらないことですぐトラウマという言葉を使う大嫌いな男の下で体が反応する。
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