見返り

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見返り

そんな日々が続き、男はだんだん私に不満をもらすようになっていた。「いつも送迎は自分ばかり、真波から来ることはない」「彼氏と別れて結婚してほしい」「あと1年待ってて。そうすれば真波の持ってるもの全てを守れるようになるから」 何を言われても私はいつもあやふやな顔と言葉で男をかわした。その態度が気に入らなかったのか、男はわざと彼の職場の近くの道を送迎に使うようになった。腹立たしいと思いながら、それでも私は無表情でいたと思う。 自分でも不思議だった。なぜ性欲のためとはいえこんなに嫌いな男と一緒にいるのだろう、と。 あの手この手で揺さぶっても反応のない私に彼はだんだんお金を使うようになった。 服などを買ってくれたり、温泉旅行に連れ出したりした。 もともと利用するつもりでしかない私にとってそれは嬉しい変化でもあったが、きっとこの男のことだから後で大きな見返りを求めるに違いないと思うとそれがとても憂鬱でお礼の言葉もはっきりとは言わなかった。 それでも男はどんどん執着するようになり、私の自宅から徒歩圏内に引っ越してきた。 本当に鬱陶しい男だ。黙って私を抱いていればいいものを、 なぜ勝手に頑張って勝手に見返りを求める顔をするのか。 会えば会うほど男を嫌いになっていった。男はそれに気付いていただろうか。気付かないふりをしていたのではないか、私はそう感じていた。
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