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秘密
男には彼の持病を教えなかった。できるだけ重大で深刻だと思わせていた方が次の約束を切り出しにくいだろうと思ってのことだった。彼は後天性の癲癇であった。薬で発作を抑えることはできていても何年かに一度は倒れてしまう。今回は同僚との食事の席で倒れてしまい、驚いた同僚が救急車を呼び偶然にもかかりつけの脳外科に運ばれていた。こんな時なのに彼が私と男の関係を知ってしまったわけじゃないことに安堵していた。そんな自分を嫌悪しながら付き添ってくれていた同僚に挨拶をし、彼がMRIから出てくるのを待った。帰そうとしたが心配した同僚は終わるまでここで待つ、と言う。鬱陶しかったがベンチに並んで座り彼を待った。男の車で病院に来たところを見られてはいないだろうか。秘密は知られてはいけない、絶対に。彼を傷つけたくはない。私の秘事をたしなめるように急死した猫のことを考えていた。彼と二泊の旅行から帰ってきたら冷たくなって廊下に横たわっていた。死因すらわからなかった。
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