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ボディソープ
男とはSNSで知り合った。何度目かのやりとりで友だちに裏切られたと落胆している男に、そんな友だちならいらない、他にもあなたを思っている友だちがいるはずだ、と私が言ったらしい。そんなことは言われるまで忘れていたが。
毎日のようにやりとりをするようになった頃、私は入院した。胃腸に潰瘍ができていたからだ。
彼との嘘に満ちた生活、家族間でのトラブルなどは医者には言わなかったが、何か日常生活がストレスになったのだろう、と主治医は言った。
入院して1週間程経ったころ、男からDMがきた。
いま、病院の近くにいる、花を持ってきた、と。
少なからず男に興味があった私は会ってみようと考えた。近くにいるのに追い返すのも気がひける。
初めて会った男の印象は細くて長身で手足が長くて、なんだか手長猿みたいだと思った。照れるように私の目をあまり見ない人だったが、文章から抱くイメージとは少し違っていた。楽しく会話をし、その日から彼は毎日私の見舞いに来るようになった。
毎日昼間に会いにくる男がどんな職につき、どんな生活をしているか少し疑問だったが、それを聞くほどの興味もなかったと思う。会った瞬間に私の脳は男を異性としてではなく、便利に利用できそうな人間に分類したからだ。
その分類に間違いはなかった。毎日毎日、私に食べ物や花、本などを差し入れにきた。
天気の良い日、病院に外出届を出し男と出かけた。海がとてもきれいだった。
男はとてもよく気がつく人だった。利用するにはちょうど良い。何度目かのドライブの後、私は彼をホテルに誘った。わたしに彼がいることを知っていた男は一度は「だめだよ、そんなこと」としぶったが結局すぐに同意し、ホテルへ行った。病院には外泊の連絡を入れた。今日、彼がお見舞いに来る予定はないので外泊に気付かれることもないだろう。
何度目かの泊まりの時、男は「うちに来ない?」と誘ってきた。興味があったので行くと返事をして車に乗り込んだ。彼は途中に寄ったドラッグストアで「真波さん、普段は家でシャンプーやボディーソープ何を使っているの?同じのを買うよ」と言った。
随分と物分かりがよく、細かいことに気づく男なんだな、使い途のある男でよかった、と思ったが男が物分かりのいい男でいたのはほんとに短い間だった。それにしても、と思う。まさかこんなに早く自分の気持ちを爆発させる男だとは思わなかった。
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