「ね夢り様」を起こしちゃなんねぇ

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 村を一望できる高台のあたりまで来た多郎は、静まりかえった故郷を見た。  畑仕事に精をだす男たちの姿は、ない。井戸を囲んで雑談にあけくれる女たちの姿も、家のまわりを走る子供たちの姿も。  ただひとつあったのは、異変。  村の中央、ひときわ目立つ装飾がなされた祠が、跡形もなく壊れていた。  まるで卵の殻を破るように、内側から何かが這いでてきた跡がある。祠の周囲は泥のような黒い水で満たされ、祠があった場所を中心とした大きな水たまりができていた。  何かが這いでた跡は、多郎のいる高台とは反対の方向へと続いている。しかし、多郎はその先を直視することなどできなかった。  力が抜ける。  倒れこむように、膝をつく。  乾いた思考のなかで、虚ろにひびく父の声。 ――「(ねむり)様」を、起こしちゃなんねぇ。
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