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飛び込み台から出て、目の前にあるプールへと視線を向ける。深さ約3m。長さは50mはある。水はまだ抜いていない為、今から抜かなければ掃除は出来ないが、
「もうめんどくさいから、明日でいいか。
先生に一応聞こう」
八尋は手足の疲れもたまっており、さすがに水を抜いてから、また掃除をする気力が無くなっていた。デッキブラシとバケツをプールサイドに置き、一つしかない出入口から出て、職員室へと向かった。
校内は部活も休みである為か、渡り廊下をあるいている間は、誰ともすれ違うことがなく、職員室の扉の前に辿り着いた。スライド式のドアをノックし、ゆっくりと開ける。
「すいませーん。失礼します」
いつもの常套句を口に出し、職員室の中を伺う。顧問の姿を探していると、後ろから右肩を小突かれた。
「いって!」
「何だ。もう掃除は終わったのか?」
振り返ると、綺麗に生えそろえた顎髭を右手でさすりながら、眉間に皺を寄せている男性の姿があった。部活動で見慣れた顧問の森崎である。森崎は未だに髭をさすりながら、
めんどうであるかのように八尋に言う。
「まさかさぼってるんじゃないだろうな」
森崎の独特の迫力と声に少したじろぐが、
八尋は精一杯両手を振って否定する。
「違います!違います!一応、プールサイドと飛び込み台までは掃除終わったんですけど、水抜きまでしないといけないかと思ってですね」
「水抜き?今からなら、かなり時間かかるぞ。何で先に抜いておかなかった」
「いやー暑さで頭がおかしくなってたみたいで」
「ふざけたことを抜かすな!」
バン!っと森崎は片手でドアを叩き付ける。
ドアにはめ込まれているガラスにひびが入りそうな勢いだ。
「すみません......」
内心では毒づいていたが、すぐに顧問に頭を下げる。その姿を見て、少し興奮が治まったのだろうか。森崎は口元に笑みを浮かべ、
「仕方ない。では、水抜きまでは行っておけ。中の掃除は明日にずらしてやろう」
その言葉を聞き終わるか否かの狭間には、
八尋は森崎の脇をすり抜け、プールの方角へと走っていた。背後から怒鳴り声が響く。
「廊下を走るな!あと、水が抜けたことも確認するように!」
水泳部に所属している八尋には分り切っていることばかりだ。水抜きの際には、排水溝が詰まっていると最後まで出来ない為、必ず
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