BII

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「もう一つ、それは、このBIIテクノロジーは西邨先生の後押しによって普及させる予定になっているということです。もちろん表向きは記憶障害の治療技術ということで、拡張運用のことは伏せますがね。さもないといらぬ波風を立ててしまうでしょう。それはともかく、ここまでは既定事項です。先生には円満な形で参画してもらわねばなりません。宜しいですね」  予想は外れた。不老不死などおくびにも出さない。だが口調は今までになく不穏なものを感じさせる。何よりも脅迫めいた雰囲気で賛同を求めているのはどういうことなのか。先般より不支持の立場は表明しているはずだが、この自信はどこから来るのか。 「はっきり言わせてもらおう、私は反対だ」 「そうですか、それはとても残念です。ではBIIテクノロジーのことは聞かなかったことにしていただきましょうか。なあに、簡単なことです。催眠因子を活性化させて当該記憶を消去するだけですから。本日の面会は始まりのところから記憶にマーキングが施されています。それを除去するだけですよ。2138年7月15日現在の西邨健剛先生は石英ディスクに保存されております。それを先生の身体に戻すのも、さほど時間はかかりませんし、普通の社会生活を送る上では何の障害も残りません。樋口君がそうだったようにね」  そう話すシーゲルの言葉が次第に遠のいていき、抗えない眠気が襲ってきた。薄れゆく意識の中で視界に残っていたのは、シーゲルが手許の鏡を動かして写しだした映像、そこには西邨の顔写真を貼った、スピーカー付きの黒い小箱があるだけだった。(了)
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