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BII
「どうぞ、ごゆっくりとお休みくだ・・・・・・」
どこか遠いところからの声、記憶に残っていたのはそんな印象だった。どのくらいの時間が経ったのかは分からない。おそらくは眠っていたのだろう。感覚的には短くはない気もするが、かと言って長いと言うだけの根拠もない。柔らかい明かりの中で次第に焦点が定まってくると、目の前に背広を着た男の姿が見える。こざっぱりとした雰囲気で、趣味の良さが漂う。
こちらに背を向けて机の上の書類か何かを確認しているようだ。腕時計だろうか、アラームが小さな音を立てた。音に反応して男は作業を止め、アラームを停める。そしてゆっくりと向き直った。
「お目覚めですね、ご気分はいかがですか、西邨先生」
ここはどこだ?、と言ったつもりだったが、聞こえてきたのは人工音声が読み上げたそのセリフだった。何だ?、どうなっているんだ?、状況が把握できずに動揺するものの、それを態度に表せているのかどうか分からない。手や足が動いている実感がまるでないのだ。
「こちらがブレイン&アイデンティティ・インスティテュートの所長、ドクター・シーゲルです」
後方より別の声が聞こえた。拘束されているわけでもないのに、声の方に向き直ることはできない。後ろの声が「ドクター・シーゲル」と紹介したのが、目の前にいる背広の男のようだ。
「ようこそ、BIIへ」
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