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祈りを終え立ち上がったギルベルトは、大事そうにバシリーの腹に触れてくる。くすぐったいが、されるがままにした。
鉄のように硬くてくっきりと割れていた腹筋は、たったひと月で臨月のような丸く膨らんだ腹になった。
体の変化に心が追いつかない。
この腹では、近衛隊長としての役目は果たせない。剣一筋に生きてきたバシリーには、耐えがたい屈辱だった。
そもそも、男のバシリーには母親になる自信などない。
「バシリーが選ばれて良かった。私はとても嬉しいのだ。出産も育児も、私が手伝うから安心してくれバシリー。ああ、弟に会えるのが楽しみだ」
だが、無邪気な主人は目を輝かせてこんなことを言う。
バシリーはギルベルトが幼い時から、近衛兵として彼に仕えてきた。七歳年下のギルベルトは弟のようであり、幼馴染でもあり、尊敬すべき主君だ。
彼の盾として生きると誓ったバシリーには、この主君がガッカリするような事は言えなかった。
「俺も楽しみですよ。陛下に似た子だといいですね」
そう、いつもの笑顔で言った。
今までずっと、この主人の前では『頼り甲斐のあるしっかりものの兄』を演じてきたのだ。
不安気な顔など、見せたくはない。
「いや、バシリーに似た、黒髪の精悍な顔立ちの男の子がいい。目も、バシリーと同じ青だと、より嬉しいのだが」
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