近衛隊長の処女懐胎

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だが、この国は大陸で最も重要かつ、特別な国だ。 このファーテリスには、神が住んでいる。 バシリーは神殿の一番奥、神の寝所を訪れていた。隣には、主君である国王ギルベルト・ファーテリアスがいる。 緊張した面持ちで、ギルベルトは祭壇の前でひざまづいた。 「……偉大なる父上。我が弟を、どうか無事にこの世に送り出してください」 安産祈願の祈りを捧げるギルベルトを見下ろして、バシリーは急激に膨らみつつある自分の腹を撫でる。 そう。この国には神が居る。 偶像ではない。祭壇の奥に、確かに存在しているのだ。 その神は何十年かに一度、国民から無作為に一人選び、その腹に我が子を宿す。男女も年齢も処女非処女も関係なしにだ。実際、ギルベルトの母は70を過ぎた老婆だったという。 産まれた神の子が成長して、やがて次の王となる。 そうして代々神の子に治められているこの国は、大陸の信仰の中心だった。 「陛下。神の子は必ず安産と決まってるんでしょう。祈願が必要ですか?」 「それはそうだが……我が友人が我が弟を出産するのに、何もせずにはいられないのだ」 神の子らしいその美貌をくしゃりと崩して、ギルベルトは無邪気な笑顔を浮かべた。齢30になるギルベルトだが、表情は少年のころから変わらない。     
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