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「ちょっと・・・」 小声で話しかけると同時に私を小突く妻。 「わっ、醤油つけすぎたじゃないか」 ああ、私の好物であるヒラメの昆布〆が醤油だらけになってしまったではないか。 しかし妻はそんな私をジロリと一瞥し、そしてさらに小さな声で私に話しかける。 「ねぇ・・・あの人泣いてるのかしら・・・?」 喋りながらベルトコンベアーの下でレーンの向こう側を指差す妻。 店内は平日の15時台と閑散としており、客は私たちとレーン向かい側に座る一人の女性だけである。 私はレーンの向こう側を一瞥するも特に泣いてる様子は見受けられない。 「そうか?別に泣いてないと思うぞ。お前な、飯屋でなんで飯を食いながら泣くやつなんかいるわけないだろう。泣くとすれば目にゴミが入ったとか、ワサビが辛かったとか。大方そんなとこだろう」 「・・・確かにそうよね。いや、さっきまでハンカチで目頭を押さえてたから気になって。でも、普通はありえない・・・あっ、きたきた!」 妻は最後まで語ることなく、レーンを流れてくる自らの注文品を目ざとく見つけると慌てて残りの寿司を食べだす。 そして注文品の寿司を手に取ると、さっそく寿司の写真撮影を始めた。 なにやらインスタだかインスタントだか知らないが、今の時代はインターネットに写真を載せるのが流行っているというのが妻の言だ。 寿司屋の寿司ならまだしも回転寿司の写真を載せて何が楽しいのであろう。 しかし楽しみや興味は人それぞれである。 そんな妻を一瞥後、今度は私が気になり始めてしまったのである。 相手に気付かれないように細心の注意を払い、そっと視線を向ける。
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