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(prologue)
まだ人と呼べる存在が希薄で、神々との境界線があやふやな時代。
類稀なる美貌の少年がいた。
彼の名はナルキッソス。
彼の姿を見た人々はもちろん、神々をも虜にしてしまうほどであった。
彼は周りの人間たちからだけでなく、神々からも寵愛を受けていた。全てにおいて公平であるべき立場の神々ですら、誰もが彼を己の欲しいままにしたいと思っていた。
ある日、森の中を散策していた彼は、初めて訪れた場所でとても美しい人と出会った。
その美しい人に、ナルキッソスは一瞬で心を奪われてしまった。
それが湖の水面にうつった自分の姿とも知らずに。
ナルキッソスはそこから一歩も動かなかった。
美しいその姿に見惚れていたのも理由の一つだが、自分がその場から離れると愛しい人が他の誰かに連れ去られてしまうような気がしたのだ。
実際、少しでも動くと湖面からその人は何処かへ遠ざかっていく(当然のことではあるのだが)。
ナルキッソスが愛を囁いても返事はない。ただ口元だけは彼と同じように動く。どんなに望んでも、愛しい人の声がナルキッソスに届く日は永遠に来ない……。
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