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ここは少し深くて暗い。 もう少し上に行けば明るくもなろうか? 漂うように浮かび、沈み、流れに乗って移動する。 凪いでいれば自ら進む事も出来ようが、今は身を委ねるより他にない。 無数の仲間もいる。何も怖くない。 ただ何かが欠けているような。 自問自答しながら、漂うだけでも良かったのかもしれない。 でも私は気づいてしまった。 私が求めるものが私を欲しているのだ。 私は喜んでこの身を捧げよう。 そして一つになるのだ。 だが、私は無数のうちの一つでしかない。 ただ一つの存在になりたいのに。 ああ、嫌だ。 ただ唯一無二の存在になりたいだけなのに。 嫌だ。 嫌だ。 仲間と一緒に飲み込まれるのは。 一瞬の出来事だった。 潮の流れとともに、体内に入り、そのまま取り込まれてしまった。 血となり、肉となれたのだろうか。 私の存在に気づいただろうか。 いや、それすらも叶わぬ、ちっぽけな存在の私。 もう自分が何者だったのかも覚えていない……。
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