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せっかくひとつになって生まれたのに、お互いの顔を見る事すら出来ない。 大人たちは僕たちを引き離そうとしている。 世界中で例のない手術になるって、みんなが僕たちを見に来ている。 いっそのこと僕たちはひとつでいたいんだ。 身体中を駆け巡る、細胞ひとつひとつに行き渡る血液さえもひとつでいたいんだ。僕たちはこれで満足なんだ。 それでも大人たちは僕たちの想いに関係なく引き離そうとする。 カチャカチャと、消毒液の匂いの充満する部屋の中に金属音が響き渡る。 せめてもの抵抗に、この血を流そう。 大人たちは慌て出す。 お願い。 「僕」の顔を見せて。 ずっと見ることの叶わなかった、もう一人の「僕」の顔を。 ねえ、お願い。 連れて行かないで。 「僕」を連れて行かないで。 さっきまでひとつだったのに。 せめて最期に愛しいその顔を見せて。 ああ、周りが騒がしい。 悲鳴にも似た声と、金属音が頭に響く。 痛いのは嫌だ。 ……でももう、痛くない。 騒がしい音も、だんだんと遠くに聞こえる。 さっきまで熱かった背中も、今は氷のように冷たく感じる。 お願い、たった一度。 僕のこの目が見えているうちに、「僕」に会わせて。 せめて最期に一目だけでも……。
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