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新アトラクションの出来栄え
翌日、歌い疲れて眠る迄カラオケをやり続けた二人を眺めつつ、朝に因んだ選曲をして歌う俺。騒音に目を覚ました二人を連れて、アトラクション会場の席へと誘導する。
「一応、外からの衝撃をほぼ無効にする結界が張られている。強引に中から壊さない限りは安全が保障されている」
「ほう、我の拳だけでは壊せない程頑丈な結界とは、相当な魔力を消費したと見える」
「事故が起きたらまずいからな。今回のコンセプトは安全な場所から劇を観て楽しむ。その上で劇中に一定数の客を巻き込み、自分も其処で活劇したと認識させられれば御の字だ」
客席の数はキリ良く100席にしてある。10×10で整列もさせ易かろうとの配慮もある。
「そして、何度見ても楽しめる様に脚本は数パターン用意した。入場者の種類を大雑把に選別して連続して同じパターンが続かない様にした」
「そんな事に意味はあるのか?」
「例えば整列時に仲間と別々になってアトラクションを体験したとしよう。終わって合流した時に、内容が食い違うとどうなる?」
「気になってもう一度観るな」
「その通りだ。そして今度は一緒に観てみれば、また違った内容に驚くわけだ」
「成る程、中々考えておるな」
「演歌に関しては全て同じ曲で先ずは客達に覚えさせる。頃合いを見て違う曲にしてバリエーションを増やすつもりだ」
兎に角、一度観てもらって感想を聞きたいので始める事にした。内容は至極単純で、魔王に攫われたお姫様を勇者が助けに向かう話だ。
「む、我が倒されるのか?」
アドジエが少しムッとした。
「最後まで観てみろ」
今回のパターンは少し特殊なものとなる。何故なら・・・。
「なんと!? 勇者の方が悪者だったのか! そして我と姫が仲睦まじく幸せになるとはのう」
「登場人物は同じでも、役割が変われば結末が変化する。今回は敢えて勇者を悪者にしたパターンだな」
「演出も面白かったぞ! 結界が頑丈なのも頷けたわ」
「こればかりは本当に苦労した。一度簡易結界で試したら一発で壊れたからな」
「演歌の方も客が多い程盛り上がりそうですね」
「歌ってくれるかは未だ解らないが、歌ったなら自分も劇に参加した事で一体感や優越感に浸れる筈だ」
「ナレーション役は固定ですか?」
「いや、毎回変える。いずれパターンが被っても、ナレーション役が変われば場の雰囲気も変わる。なん度観ても違った内容を楽しめる」
「これは全パターンを制覇せねばならん様だな」
「おいおい、それは本番まで取っておいてくれ。今日はこれで終いだぞ?」
「なんだつまらん。まぁお楽しみは後に取っておくのも悪くはないな。なるべく早く開催せよ」
「へいへい」
アドジエの評価も高そうなので、成功は間違い無いと思う。後は実際に100席全部が埋まった状態で客達がどういった反応を示すかは、やってみないと解らん。
「パンゲ、コッソリ覗いていたのは知っている。お前も本番までは出入り禁止だからな」
「ちぇー」
子供か。後ろの席からひょこっと顔を出し、渋々帰って行く神様を見送った俺は舞台を振り返る。最終調整を終えた新アトラクションは、確かな手応えを感じた。
果たして本番は無事に済むのか、演歌をこの世界の老人達が受け入れてくれるのか。子供達へのサプライズは成功するのか。様々な不安が残る中、本番は訪れたのだった。
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