第1章   まずは訪問

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そうよ、とひめさんはにっこりする。 廃墟と見まがうばかりのおんぼろ家だった。2階建て庭つきの大きな屋敷ではあるけど、屋根はトタンで雨漏りがしそうだし、外壁は剥がれかかった木の板で、そこに蔦が縦横に這っている。窓枠には曇りガラスが嵌っていたが、ひびが入っていた。錠前つきの高い鉄門がある。その向うは雑草と花梨の木が丈高く生い茂っていて、迂闊に足を踏み入れられない感じである。 俺は嫌な事に気が付いていた。ここ、有名な幽霊屋敷だ。都市伝説のネットサイトで写真を見たことがある。これまで何人ものごろつきがこの屋敷に忍び込んだが、警察に捕まると一様に『あの屋敷には幽霊がいる』と訴えるらしいのだ。眉つばだと思いながらも、おどろおどろしいこの外観である。そんな話が広まっても無理はないようなかんじだ。 彼女はのんびりと言う。 「鍵を忘れた。中の人に連絡する電話もないし。開けてくれる?」  門を指差し、じっと俺を見つめて、笑う。 鍵のない門を開けろとは無理をいう。が、彼女の無理無体はいつものことだ。     
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