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鉄門には太い鎖がかけられ、大きな南京錠までついていた。俺はその門を10分近く揺さぶってみたが、何の応えもない。鎖が耳触りな音をたてるだけだ。通行人が俺を怪しげな目付でじろじろ見る。溜息をついて、俺は揺さぶるのをやめた。振り返ると、路上の花壇のふちに座って、ひめさんはにこにこ笑っている。膝に頬杖をついて、ふざけてるみたいに俺をせかした。
「早く早く。できるくせに」
やっぱりな。これ、《テスト》だ。
しかし彼女はいったいなぜ俺に無茶ばっかり言うんだろう。そういう性格だと言われたら一言もないけどさ。
俺は静かに息をすう。自分の手のひらを見つめる。熱のない白光が掌の上にまるく浮かんだ。通行人には見えていない。皆振り返りもせずに通り過ぎていく。
この光を、俺とひめさんは御魂と呼ぶ。御魂は、もの問いたげに掌の上で上下する。俺は小さく囁く。
「金属の御魂よ、願いを聞いて。この門を開けたい」
瞬間、御魂は渦巻くように回転すると、門の錠前の中に潜り込んでいく。しばらくしてかちっ、とごく小さな音がした。御魂は錠前から俺の掌に戻って来る。満足したようにぐるんと回転して、ふっと消えた。
俺は門に両手でそっと触れ、少し押してみる。こともなげに開く。
よし。
俺は振り返ってひめさんを呼び寄せようとした。が。
あれ? ……いない。彼女の座っていた花壇には、初めから誰もいなかったみたいに大きなダリヤの花が揺れていた。しばらく塀の周りを廻ってみたが、ひめさんはいない。
困ったな。どこいっちゃったんやろ。
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