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日野金曜はいつのまにか姿を消している。俺は声を低める。
「あんた保護者か? どうして彼女に鎖なんか」
女は思いがけずふっと笑う。とってつけたような丁寧語で言った。
「保護者ではない。それより、何か用事があってここに来たんじゃなかったんですか」
あ、と俺は我に返る。そうだ、ひめさんと一緒に俺はここに来たんだった。しかし肝心のひめさんがいない。俺はこの人とひめさんにどういうつながりがあるかということすら知らないんだ。俺は警戒したまま彼女に話しかける。
「日野ひめさん、知ってますか?」
その名前を聴いた尼僧服の女はかすかに眉を上げる。とりあえず俺は淡々と言った。
「俺、ひめさんとは昔から手紙でやりとりがあるんです。一緒に来たんですけど、彼女門前で急に消えてしまって。日野探偵社というのはここですよね」
「探偵社なんて表札は出してないはずだが」
慎重な顔で問われ、俺はだまってひめさんの名刺を渡した。名刺に書かれた住所はここだ。尼僧服の女は名刺をつまんでじっと眺める。
「この名刺を持ってるとはな。ここは確かに探偵社だが、公には存在しない。紹介状がある人物からの依頼しか受けないんだ。この名刺はその紹介状代わりだ」
そういって俺をじっと見つめた。
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