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びっくりした。カップを銀盆にのせて運んできたのは、惹きこまれるような美貌の人だったからだ。漆黒の髪に象牙のようなあたたかみのある膚の色、瞳は深い茶色で、彫の深い東洋風の美女だった。しかも、スタイルが抜群に良い。体にぴったり合う深緑色のスーツとショートパンツを着て、まっすぐな美しい脚に揃いの色のピンヒールを履いている。
水曜、という名でよばれて振り返った女は、苦々しい顔で承諾の唸り声を発した。
「木曜は甘すぎる。不法侵入者の話を聞く義理なんかない」
「でも、紹介状はちゃんと持ってはる。ひめさんの」
美女はテーブル上の名刺を指差した。水曜はそれを聞くと、ぷいとテーブルの前から立ち去って、奥の暖炉前の椅子に乱暴に腰かける。代わって木曜と呼ばれた女の人が、そっと俺の前に紅茶のカップを置いた。
滑るようにソファに腰掛ける。にっこり笑った。年は20代前半だろうか。緩く巻かれた髪は優雅な曲線を描いて肩にかかる。
「金曜と同じクラスのかたですよね」
おっとりとした口調で、彼女……木曜さんはそう言った。優雅な仕草で、ポットから俺のカップに紅茶を注ぐ。
「心配してくれはって、おおきに。せやけど、うちらはあのこを監禁しているわけやありません。うちらにも事情があるんよ」
ポットをことりと置いて、俺を見つめた。
「うちが話せるのは、金曜が今、苦しんでいるということだけです。あのこの深い悩みを、軽々しく話してしもたら、うちは金曜の信頼を失ってしまう。わかってとおくれやす」
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