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俺が訝しげな表情になると、木曜は咎める視線を水曜に送る。口をつぐんだ水曜の腕の中から木曜さんは漸く上半身を起こし、何か言おうとした。がそのままはっと戸口を見る。
水曜も同じ方向を見て立ち上がろうという姿勢を見せる。戸口に何があるんだ?
気づいた俺は後ろを振りかえろうとする。しかし遅かった。
ごう、という音とともに何かが飛び込んでくる。何だ……?!
火曜、やめろ、と水曜が叫ぶ。俺の眼に入ったのは赤い獣だった。犬、いや違う。赤い獣は俺と木曜さんの間に跳び込み、俺に向かって歯を剥きだして唸る。俺は目を疑った。
赤い豹!?
考えている暇はなかった。跳びかかってくるその獣のスピードに、俺は御魂を呼びだす余裕もなく、ただ腕を交差させて避けようとする。思わず目を閉じた。
が、何かがぶつかって割れるような音とぎゃんという手ひどい悲鳴を聞いて俺は顔を上げる。
俺の前には木曜さんの背中があった。彼女はすっくと立ち腕を水平に伸ばしている。いつのまに飛び込んだ? それに今、いったい何を? 素手で弾き飛ばした……みたいだけど、まさか。こんなかぼそい女の人がそんなことできるわけないよな。
俺は彼女の腕の先を目で追う。テーブルの上にあったはずの高価そうな紅茶のカップは無残に割れている。そしてその破片の中に、小さな女の子がいる。
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