19人が本棚に入れています
本棚に追加
振り返るひめさんに俺は慌てて口ごもる。
「指輪。……してはるなって。すいませんへんなこと言って」
本当は正直がっかりしていた。指輪してるってことは、彼氏がいるのかも。
ひめさんはこれ? と手を差し出す。細い指に嵌った銀の指輪には黒い刻印がある。
「とても古い指輪なの。300年以上前のもの。これは土星の刻印」
土星? と俺はぐねぐねした曲線の刻印を見つめる。ごつごつとしたシルエットのその指輪は、鈍い光を放っている。アンティークてことは彼氏のプレゼントじゃないのかも。
「あの、どうして俺を引き取ろうって思ったんですか」
思いきって聞くと、彼女はまっすぐ前を見てにっこりした。
「君にはこれからしてもらうことがあるの」
え?
どういうことか俺はおずおず聞き返そうとしたが、彼女は突然立ち止まってしまう。タクシーが目の前に止まった。彼女は開いたドアを指差す。乗れってことらしい。
車に乗り込んだ後、ひめさんは俺に名刺を渡してくれた。日野探偵社、と書いてある。ここへ行くというのだ。探偵社? と頭にはてなが浮かんだが、寄り道でもするのか、その近くに家があるのか。それにしても日野というのは彼女と同じ姓だ。
最初のコメントを投稿しよう!