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どうして、そんな彼が美聖に声を掛けてきたのだろうか……。
(私なんかより、適任は大勢いるだろうに……)
――合格だ……と、降沢自ら、美聖に告げた。
あの言葉の意味。
美聖の目が良いというのは、どういうことだったのか?
彼の試験内容は、おそらく『ユリの絵』だったはずだ。
『慕情』という名前の絵は、降沢が描いたものなのだそうだが……。
(普通、自分が描いた絵を見て、腰を抜かしそうになっている人間を採用しようと思うのかしら?)
美聖に、霊感はない。
もしも、霊能力者だったら、もう少しちゃんと鑑定することも出来たはずだろう。
少しゾッとした。その程度で……。
目が良い人間を雇いたいのなら、霊能者を雇えばいいのではないか?
…………いくら考えても、さっぱり分からない。
「あっ、ほら……一ノ清さん時間ですよ」
時計に目を落としつつ、降沢が小声で伝えてきた。
ほとんど空気のような存在に成り果てているにも関わらず、こういうことには、目敏い。
「あっ、ごめんなさい! 今、看板を出してきます」
慌てて美聖は、玄関の前に立てかけられている四角い店の看板を手に、外に飛び出した。
午前十一時開店だ。
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