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ゆったりと時間が流れている古民家カフェは、大体ふらっとお客さんが立ち寄るスタイルが多いので、開始早々お客さんが入店するケースはまれだ。
――しかし、今日は……。
「…………あっ」
外に出た途端、人がいた。
黒縁眼鏡に赤髪の男は、気温が高いにも関わらず、黒いズボンに、分厚いジャケットを肩に引っかけている。
しかも、今の今まで、煙草を吹かしていたらしい男は、美聖が現れた途端、それを捨てて、重そうな靴で、ごしごしと地面にこすりつけていた。
ジャケットの中から、覗く左腕には、赤い薔薇のタトゥーが入っていて、幾重にもブレスレットがぶら下がり、中指に骸骨スカルの指輪をはめていた。
いかにも、ロックミュージシャンのような容姿をしている男は、『アルカナ』の雰囲気とは明らかに一線を画した異質な存在であった。
――いや。
(この人、どこかで……)
「あの……?」
おそるおそる声を掛けたが、美聖の声が届く前に男が尋ねてきた。
「なあ、開店したんだろ?」
「……あっ、はい。たった今」
「じゃ、もう、いいよな。お邪魔しまーす」
「えっ? あっ、ちょっと!」
男は強引に、美聖を押しのけるような形で店に入って行った。
「いらっしゃいませ……」
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