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口はとてつもなく、悪い。
けれど、美聖は生まれて初めて、芸能人を間近で見たのだ。黄色い声をあげたくもなるだろう。
しかも、こんなに間近で……だ。
(顔、小さい……)
テレビで見るより、一層小さく、整った目鼻立ちをしていた。
最上 初にファンではないくせして、美聖はドキドキしてしまった。
「最上初さん……! こんなところでお会いできるなんて、とても嬉しいです」
「本当か? その割に、さっきはおもいっきり、胡散臭い顔で睨んでなかったか?」
「とんでもない! ちょっと、このお店の客層と違ったイメージだったので、びっくりしただけで……。まさか、ウィザードのボーカルが山奥のこんなところまでいらっしゃるなんて……」
「ウィザード?」
降沢があからさまに、分からないといった面持ちで、奥の席で首を傾げている。
美聖はぽつりと呟かれた言葉を聞き逃さずに、彼の隣に行って、小声で降沢の耳元に答えを吹き込んだ。
「バンドの名前ですよ。ウィザード。今、若い子に絶大な人気なんですよ」
「ふーん。そうなんですか」
降沢は、本当に知らないようだった。
北鎌倉とて、電気は通っているだろうに、テレビを見ないのだろうか……。
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