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(この人、仙人か何か?)
美聖も馬鹿だった。
最初に、気づいておけば良かったのだ。
腕の赤いバラはロックバンド『ウィザード』のトレードマークである。
売れているどころの騒ぎではない。
『ウィザード』は、音楽不況と言われている中で、珍しいミリオンを達成できるくらい人気のあるバンドなのだ。
(どうして、ここに一人で来たわけ?)
有名人がお忍びで一人で来るほど『アルカナ』は、有名な場所でもない。
とりあえず、サインをもらったほうが良いのではないかと、またしても、ミーハー心に火がついたものの、しかし、最上の不機嫌そうな仏頂面を目の当たりにして、すぐに気持ちは萎えてしまった。
最上は手前の椅子を引っ張って勝手に座ると足を組んで、テーブルに肘をついている。
「あー、だからさ、あんたたちじゃ話にならないんだよ。降沢先生、呼んできてくれない? 金は積むから、もっと売れるように、俺を描いて欲しいんだわ。まさか、そこのオカマのおっさんが降沢っていうわけでもないだろう?」
「トウコさん?」
美聖は狼狽しながら、黙り込んで最上と対峙しているトウコを見上げた。
彼は、何かを思案しているらしい。
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