00 出会い

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「帰りは私と一緒に行きましょう。出勤も一緒だと安心かもしれないわね?」  美聖の気持ちとは裏腹に、トウコが気安く話しかけてくる。  むしろ、この大男と一緒にいる時間の方が緊張しそうなのだが、ここまで来てしまったら、腹を括るしか選択肢もなかった。 (お金のためよ……)  美聖は訳あって、現在シフト制のアルバイト生活だ。  一年前に事務職を辞めてから、コンビニバイトと電話占い師の仕事を両立しているものの、まとまった収入とは程遠い。  電話占い師は、売上の良い時は稼げるのだが、波がありすぎる。  困り果てていた美聖に、電話占いで一緒に働いていたトウコが良い仕事があると紹介してくれて、怪しいとは思いつつも、北鎌倉までやって来たのだ。それこそ、藁にもすがる気持ちで……。 「トウコさん、ありがとうございます。ここなら家からも近いし、助かります」 「美聖ちゃんの実家って、逗子だものね……」 「はい。電車で二駅です。遠いところは通えないので、トウコさんに紹介してもらえて良かったです。そもそも、対面鑑定の仕事ってそれほど求人ないですから」 「メインは喫茶店の給仕だから時給制。まあ、占い師にとって、ある意味、待機保証があるなんて、画期的よねえ」  にこやかに応じるトウコは玄関の引き戸の前に突っ立たままだった美聖を、古民家の内部に押し込んだ。 「さあさあ、入って」 「……あっ、ちょっと」  美聖は、慌てていた。営業時間前とはいえ、客が訪れる気配をまったく感じない。 (こんな山奥で占いなんて、需要があるのかしら?)  しかも、男性と二人で仕事をすることになるなんて、お金に目が眩んで周囲が見えてなかったとはいえ、無防備すぎるだろう。  だが、トウコに押しやられるようにして足を踏み入れた室内は、驚くほど開放的でモダンな造りをしていた。
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