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(一体、いつからここにいたんだろう?)
男性は窓から室内に入ったようだった。証拠に、大きなガラス窓は全開となっている。
「貴方は一体……?」
おろおろと、美聖はトウコを捜すものの、一方で、男から目を離すことができない。
「あっ、合格です。一ノ清 美聖さん」
謎の一言と共に、男が髪を掻き分けた。
切れ長の瞳が露わとなると、美聖の視線は彼の美形に釘付けとなった。
細面の顔に、整った鼻梁、きりりとしまった口元。
ドラマや漫画の世界だけだと思っていた。
素顔が明らかになると、見目麗しいなんて……。
すっかり、その容姿に惹きつけられてしまった美聖は、その直後、鳴り響いた拍手に、大げさに反応してしまった。
「ほーら、やっぱりね!」
「な、何っ?」
どこに潜んでいたのだろう。
トウコがすたすたと、こちらに向かって来る。
「だーから、言ったじゃないの!? ざまあ見なさい」
「はっ? トウコ……さん?」
「私の目に狂いはないって。美聖ちゃんは『良い目』を持っているわ」
「でも、彼女と会ったこともないって、言っていたじゃないですか?」
男が淡々と言い返す。 ……が、トウコも、負けていなかった。
「なめてもらっちゃ困るわよ。私だってね、まだそのくらいは分かるんだから。私が採用したのよ。勝手に合格扱いされるのも、上から目線で不愉快だわ」
「…………あのー?」
美聖は勝手に言い争いを始めてしまった二人を見比べながら、おそるおそる口を挟んだ。
「あら、嫌だ」
トウコは、くすくすと肩をすぼめて笑うと、お綺麗な男性を指差しで紹介したのだった。
「紹介が遅くなっちゃったけど、この人がここの店『アルカナ』のオーナーで、画家の降沢 在季」
――画家?
美聖は生まれて初めて『画家』と職業を持つ人物を目の当たりにしたのだった。
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