1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
冬の邂逅
タバコに火をつけながら、一つ姉の壱子が言った。
「私が16歳の時って何をしてたっけ?」
火葬場で骨だけになった従兄弟を、私たちは先程まで眺めていた。
タバコを吹かす彼女の青い目に涙はない。
「彼氏を作りまくってた。
あと、ここは外だけど喫煙禁止だよ」
壱子の弟で学ランを来た三鶴が言った。
背の高い彼は北風に流されていく、煙をずっと追っていた。下から覗くその青い目には、何も映っていない。
「イチのふらちー」
と、私はマフラーを巻き直しながら言った。
壱子は苦々しげに、細いタバコの煙をひと吸いして、吐いた。
「何も、こんなにも早く死ななくてもよかったのにな」
彼女の言葉に頷いた。
そう、私も二十歳になった。これから、転がるように過ぎさっていく人生を歩んでいく。
けれど、あの骨はそれが叶わなかった。
まだまだ未来があったはずなのに、ひょんなことから。
たった15歳で。永遠に失われてしまった。
「交通事故なんだから、仕方ないだろ」
三鶴が言った。
けれど、そんなもので、片付けられるほど、私たちの悲しみは軽くはなかった。
いや、これは悲しみではない。負い目だ。
それは、安達村家の末子達はみな感じていて、何かの拍子に思い出す度、胸を重くする。
そして、私達の会話を途切れ途切れにさせた。
しばらく沈黙した後、壱子が言った。
「あのさ、唐突なんだけど、真里亞を呼び出してみない?」
本当に唐突な提案に、私と三鶴は首を傾げる。
彼女の提案はいつも唐突である。
最初のコメントを投稿しよう!