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ジルベール・グロリオーサ・マーレイの運転する愛車は高速道路から、今日も街中を滑るように走り抜ける。
彼の隣には、いつもクラーレットが座っている。
「ねぇ、ジル」
「なに、どうした?」
サントノーレ通りでスカーフなどを購入して程なく、二人はパリを後にした。その後はジルベールの台詞の通りに南仏へ向かい、フランスから発ったのだ。
ヴェネツィアにも、バルセロナにも行った。イタリアなら「今度はアマルフィに行きたいね」と話している。
モロッコの青い街として知られるシャウエンにも足を向けると、「おとぎの国」と絶賛される街で、ジルベールは何枚もクラーレットの写真を撮っていた。
それから欲を言えば、いつかイエローナイフにオーロラを見に行けたらいいと思っている。
とにかく、二人はこの三年間でできる限り多くの国と都市を回っていた。
そして、今は……アメリカ合衆国・ニューヨークにあるタイムズ・スクエアを訪れていた。
「すっごーい! ジルっ、見て見て! すごいすごいっ!」
「わかってるよ。ちゃんと見てる」
相変わらず、クラーレットはどこへ行っても何を見ても感動しきりである。
「でも……目がチカチカするねぇ」
ここは世界の交差点と言われる。
建物外壁のあちこちにビルボードが設置され、世界中の企業の広告やら巨大なディスプレイがあり、目眩がするようなネオンサインが瞬いている。その眩しさに彼女は少しばかりやられてしまったらしい。
ジルベールはいつにも増して、しっかりとクラーレットの手を握っていた。
アメリカは、銃社会だ。
彼はここでブロードウェイのミュージカルを観せてやろうと考えていた。この年の年越しもアメリカで過ごすのもいいかもしれない。
二人は変わらず、安い宿に身を寄せていた。
「折角だ。何かメシでも食って行くよ。ミュージカルを観るんだ」
この都市を選んだ理由は二つある。
まず、この目でブロードウェイのミュージカルを観てみたかったからだ。クラーレットに観せてやろうなどとほざいていたが、実のところ一番は僕である。
次に………祖父がいるロサンジェルスにはロンドン同様に死んでも近づきたくなかったからだった。
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