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自分が放った言葉にまったく異なる台詞がきたと気がついたのは後になってからだ。
おまけに返事もしなかった。
あの街を出てから時計の針は三周したが、空にはまだ太陽が昇っている。
「ジル」
「何だよ。飯なら食ったろ」
「車、ちゃんと停めて」
愛車は、またも適当に乗りつけて――――そういうわけにはいかなかった。
「………細けぇな」
「さっきは運がよかったのっ!」
「命拾いしたことも含めてね」
その後は無事に次の都市へと移動することができた。いつもの癖で路肩に停めかけたところに指摘をくらう。
それと同時にするりと飛び出した嫌味は、この先の行動を考えると相手を意味もなく傷つけるだけの結果になったことに気がついた。
「っと、そうだな。ごめん、クラーレット」
大きな黒目勝ちの瞳が俯いて気落ちしたところを見る勇気はなく、目の前の景色だけを見て謝った。
「次は、フェリーに乗るよ」
そのため今回はきちんとしたコインパーキングに駐車しておく必要があるだろう。
「……悪いけど探してくれないか。どっか、安いところを」
……返事はもらえそうにないな?
「海が、もっと近くなる」
自らの意思で身につけた口の悪さはともかく、おそらく思ったことをすぐ声に出してしまうところは父親に似たはずだ。
また、要らぬ血の引きかたをしたらしい。
「どこ行くの」
「なに、僕らにとって天国に一番近いところさ」
少女が見つけた安いコインパーキングに駐車したところで自分から手を差し出した。
「ジルベール?」
「繋いでおいた方がいい。はぐれると困るだろ、僕が」
さて上手く笑いかけられていただろうか?
手を繋がれるのを待って、触れたぬくもりを大切に握る。
独りよがりではなく、今度こそ二人で並んで歩き、華奢な足が踏み出す一歩はとても小さいのだと驚いた。
「急がなくていい。僕が合わせる」
急ぎ足に合わせた呼吸が上がり、夏の陽射しを受けた頬が赤く上気する。
そうか。君は、まだこんなにも小さいのか。
自分の頃は、どうだっただろう? ____よく、覚えている。姉と兄と駆け回り、その後を父が追っていて、弟のことは待っていた。
「……おい、無理するな」
僕らが駆け回ることはないけれど、歩幅を合わせるくらい苦でも何でもなかった。
「綺麗な町だよ。……多分」
この繋いだ手は、もう離さないと、決めたではないか。
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