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「随分と長い髪をしていたのね」
「見てくれてたの?」
「……同僚たちがね」
掻きあげた金色の髪は伸ばされているものの、毛先はするりと指から離れた。
少年の喉をなぞる。
彼の曲線はなめらかで、今はまだ目立った突起は現れていない。ミラベラの指先は焼け付くように熱くなった。
危うく艶やかさに当てられそうになる。
ジルベールは、表情を見るに、ミラベラの答えに納得していないらしい。
「興味なかったの」
彼は尋ねたつもりでいた。しかし語尾は上がらず、低くなる。
いくらミラベラが「そんなことないわ」と言おうとも頑なな少年は「嘘だ」と言って聞かない。
「私、そんなに嘘つきじゃないわ……?」
腹が立つ。そう思うに決まっているはずだったが、言葉を交わしているうちに何だかミラベラは馬鹿らしくなってきた。ジルベールも同じだったようである。
おそらく彼の唇がわなわなと震えているのは笑うのを我慢しているからだろう。
「ねぇ、ジル」
――本当に、手のかかる御坊っちゃんだこと。
以前も、そんなことを思った覚えがある。「成長してないなぁ」と呆れながらも笑い飛ばしてしまいそうで怖かった。
湯船に浸かる美少年に近づくと、ストッキングを脱いだ裸足の足裏が、浴室のタイル地の床にひたっと張りつく。
ジルベールが「なーに?」と濡れた手で抱き寄せなかったことは褒めておいてあげようと思った。
「………なんでもない」
自分は変な気でも起こしたというのか、まさか? ミラベラは自らの額をジルベールに合わせた。
ジルベールの瞳が驚きで丸くなる。
「どっ、どうしたの?」
「こういう気分なのよ。大人しくしていて」
私たちは、どうかしている。
ミラベラは思った。まったくもって不健全だ。浴槽に手をかけると、同じように重ねられた。それを自分から外して相手の小さな頭を抱く。
唇に噛みついた。
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