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袖口から腕にかけてドレスが濡れる。「ふ……っ」と、ジルベールの不恰好な息が漏れた。
作法は既に教えている。薄い舌は遠慮がちに伸ばされた。無理に唇の間を縫うこともなく、差し込まれる。ノックも忘れない。
いい子だ。
「ジルベール」
汗が額から輪郭をなぞり、首筋へ流れる。こめかみに血管が出る。彼の肌がミルク色から赤く火照った。
少年が掻き抱くより早くミラベラから先に離れる。キスは徐々に下りてゆく。幼い子ども同士のじゃれあいのごとく、わざと音をたてた。
「ぅっ」
ジルベールが、か細く呻く。
大した厚みのない胸板から口唇を離してやる。少年はひどく感情を乱された表情をしていた。
これだ、この顔……ジルベール・グロリオーサ・マーレイは、こんなふうになる。ミラベラの前ならば――沸沸と、らしくもない感情が湧いてくる。
御坊っちゃんは上擦った声で呼ぶ。
掠れている。
「のぼせるから、上がりましょうか」
頭っからバスタオルでくるんでやった。
「ミラベラ………服、とって」
「どうぞ」
ベッドの上で両膝を立てたジルベールは顔だけを覗かせている。金色の髪からは幾度となく水滴が落ちていた。
「また、からかった。勝手にシャワーを借りたから? それとも香水のこと……?」
「その両方かもしれないわね」
彼が、もそもそと衣服を身につける。
「……ごめん」
「ジル、あなたって体力があるのか無いのか分からないわね」
「そのうちつく」
「いらっしゃい。髪を乾かしてあげる」
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