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ジルベールは火種を燻らせていた。
自宅に戻るや否や部屋のネームプレートを裏返しにして鍵をかける。誰とも顔を合わせなかったのは幸いだった。
頼むから、今だけは開くなよ……? と、双子を繋ぐ回転本棚に祈って念じる。
ベッドに潜り、丸くなる。
右手は足の間にまっすぐ伸びていった。鼓動がうるさい。衣擦れの音が妙に大きく聞こえた気がした。うるさい、うるさい。緊張、それから後ろめたさで心臓が爆発しそうだ。
必要な物は、一つ、ミラベラの部屋からくすねてきた。
枕を噛んで声を殺す。
手つきが、指が、懸命に彼女を思い出そうとした。なんて不潔なことをしているのだろう! 母や姉は卒倒するかもしれない。
――いや、何の問題がある……?
僕は男だ、健全な男なのだ。
そう何度もジルベールは、自分に言い聞かせなければならなかった。
「ミラベ……っ」
部屋にいるはずのない、彼女を呼ぶ。まるで懇願するようだ。
涙が流れた。だが、それが何を意味するのか……ジルベールには、まだ分からない。
最後に、もう必要のないものを、引き抜いた。
恍惚としたか? むなしさ……? 喪失感?
仰向けになって息を吐く。そのどれもが当てはまるようで、同時に違ってみえた。
シャワーで流したはずの汗が、また浮かぶ。きっと、ミラベラの香水のせいだ。
馬鹿なことをした……
今日のことを知れば、ミラベラは軽蔑するだろうか……?
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