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紳士としては不埒極まる振る舞いだった。
僕は、またミラベラの言いつけを守れなかった。
利き腕を額に当てたジルベールの両頬には涙の痕がある。半開きの口で懸命に息をした。
顔を洗おう。この火照りを取り除かなければならないし、平然とディナーの席に着く必要がある。
……大丈夫だ。どうした、ジルベール? 後ろ暗いことなど何もない。
僕は極めて健全で、若い……早熟な男なだけなのだから心配することはない。
だって燻らせたあの人が悪いんじゃないか。
再び身支度を整えて、おぼつかない足取りで階段を下りる。ティッシュに丸めて捨てておいたが、母にはバレるまい。
ジルベールは自力で階段を下りられるようになって、初めて手すりを使った。
「具合悪いの?」
「へぇっ……?」
もし声をかけてきたのが女の人ならば、間違いなくそれきり固まっていた。水をぶっかけるように洗っていた顔を上げる。
洗面所の入口に双子の兄が寄りかかっていた。
「顔赤い?」
「どっちかっていうと青白いかな」
そうか。いま自分は青ざめているらしい。道理で肝が冷えたわけだ。
「……そう………別に平気だよ」
投げつけられたタオルは目を伏せて受け取った。少しばかり乱暴に顔を拭いて頭を振る。
「お前、少しは休めよ。それから学校の課題は机に置いとく」
「えっ……?」
いつもの気遣いが今日ばかりは余計だった。
「やめろ!」
ジルベールの声がこの場の空気を裂いた。まずい。反射といえど不自然すぎる……
「今でいいだろ、渡せよ」
兄の眼が鋭くなる。
「何なの……ジル……お前」
「いっつも勝手に入ってくるから……僕は、そんなことしない」
いま自分は一体どんな表情をしているのだろう?
ひどく感情が乱されてはいないか……?
こいつは見破るぞ、双子だから……
「嫌なら父さんに頼んで固定してもらえよ。……本棚……」
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