La Vie en rose - 薔薇色の人生 -

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「グレンッ!」  なんで……? どうしてそんな顔をする?  そんな視線()を僕に向けるな。  ジルベールには兄の眼差しから自分が侮蔑したような態度をとられているように見えた。  ____知っているのか? それほど軽蔑に値する振る舞いだったか? ――お前だって、そう変わらないはずだ……  青い瞳で挑むように()めつけていた。唇は一層赤くなり、固く結ばれている。 「……ジル……お前、変だぞ」  兄の感情が読み取れない。一体何を考えているのだろう。ジルベールは危うく陳腐な返しをしそうになった。安い台詞が喉元までせり上がる。  冷静になれ、ジルベール。今は紳士(スマート)になるんだ、もう火種はないだろう?  このところ彼はずっと自分に言い聞かせてばかりいた。 「少し……疲れてるんだ」 「休めよ」  心の底から疲れきっているときと同じ声が出た。 「寝てた。……さっきまで……」  本当だ、嘘じゃない。ジルベールは寝ていたのだ。ミラベラの部屋と……自室で、彼は()()()()。 「宿題をするよ。悪いけど教えてくれない? そっちに行く」  グレンは一言「そうか、わかった」と相槌を打つと、弟を部屋へ招き入れた。二人で並んで階段を上がる。 「全部貸すから、すぐおいで」  隣り合った自室のドアに手をかけるより早く声をかけられたところで兄の部屋のドアを開けることになった。  ジルベールは耳から上の後ろ髪をひとつにまとめてハーフアップにした。下を向くと、どうしても垂れてきてしまうからだ。 「切らねぇの?」 「うん」 「そっか」  短い言葉をいくつか交わして向かいに腰を下ろした兄が教科書を開く。 「じゃあ生物からな。ってか、なんで苦手なの。ジル」 「電気とか天体とかなら、まだいけるんだけど……」 「そっちの方が難しくないか……?」  グレンが神妙な顔になる。勉強をするとき、彼は決まって黒縁の眼鏡をかけていた。「なに」と声を低く落とされる。 「賢そー」 「馬鹿じゃねえの。……代わりに世界史教えろよ」 「どこの?」 「フランス革命の前後。テスト範囲なんだ」 「任せろ」  騎士(シュバリエ)も少しは役立ったか。ジルベールは、にやりと笑った。
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