La Vie en rose - 薔薇色の人生 -

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 二卵性双生児は何かにつけて正反対だった。両親のどちらかに似た顔立ちに髪の色や長さ、性格だってもちろん違う。食べ物の好み、物事に関する得手不得手……取り敢えず思いつくものすべてだ。それらは多岐に至る。多分女の趣味も真逆だ。  同じことといえば、年齢と瞳の色くらいか。  背丈も体格もグレンが高く、しっかりとしている。それが羨ましくて堪らなかった。  眼鏡の奥の青さがジルベールよりもっとずっと澄んで見えるのは不道徳なあれこれを知らないからか? ――いや、わからないじゃないか。そう変わらないと思ったのはジルだろう……?  また、自分に問いかけている。聞くべきは目の前の相手だ。 「どうした?」 「ここ、もう一回教えて」  兄が授業でとっていたというノートと教科書を並べてジルベールに教えてくれている。その一点を指さした。  グレンは優しい。弟が誤魔化すためのお願いにも「これはな……」と快く応じてくれる。ただ、腹の(うち)は分からない男だ。  ジルベールが書く流れるような文字とは違い、やや角の目立つ英字はどこかのフォントのようだ。少々癖のある字だが、慣れもあってか弟にとってはとても見やすかった。 「ジル、お前もっとしっかり書けって」 「えっ……?」 「なんか、消えちゃいそうじゃねぇかよ」  突然の指摘に顔を上げる。勉強でも何でもない部分だったこともあり驚いた。 「大袈裟だよ」  確かにジルベールの文字は薄い。もとより彼は筆圧もあまりないのだ。いつものことだと笑って答える。 「それに、手が黒くなるのも嫌なの」 「限度ってもんがあるだろ、そりゃ」  彼としては至って真剣に答えたはずなのだが、兄には可笑しそうに笑われてしまう。  精悍な顔が、ふとした拍子に幼く見える一瞬は、母との馴れ初めを話す父を彷彿とさせた。この二人は、本当によく似ている。  その後、兄からの「次の予習もしておくべきだ」という後押しもあり、数ページ進めたところで今度はジルベールが教える役になった。 「さすが、詳しいな」 「撮影前に頭に入れて行ったからね」  学校は、やはり休みがちだが、今回ばかりはただならぬ自信がある。 「世界史は僕がもらうよ」
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