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それから「弟か妹ができるよ」だったか、そんなことを告げられるには、時間がかからなかった。
今の年齢から考えると比較的に遅めだが、十九歳で結婚・初産を経た母と、四歳差の父は、それでもまだ三十四と八だ。
姉や兄は思わぬ明るいニュースに喜んでみせた。だが、何も考えが至らなかったわけではないだろう。
正直なところ、ジルベールは一番最初に「へぇ、仲良いんだ。ふーん……」と思ったことを白状しよう。続けて「別にいいけどね」なんて口の中で呟いた。
ミラベラと出会わなければ、こんなことは考えもしなかった。
母の休業は、おそらく彼女の本心のいいカムフラージュになっている。
ジルベールは「手伝うよっ」と父の後を追った。
「ねぇ、どう思ってるの?」
「何が?」
「母さんのこと。仕事のね」
「どうしたの、急に」
二人でキッチンに並んだところで父に問う。彼は何でもないことのようにミルクティを淹れて、僕を見る。
「やめちゃうよ? 母さん」
「いいんじゃないかな」
「どうしてっ?!」
つい、責め立てるような口調になってしまった。
「俺、『女優、スカーレット=ローズ・グロリオーサ』を好きになったわけではないから」
対する父は、そんなことをさらりと言って退ける。だが、さすがに恥ずかしかったようで頭を掻く。
それが照れたときの父の癖だと、ジルベールは気づいた。
あまりにも見すぎていたせいか、彼は下手な視線の外しかたをする。
「ちょっと、恰好つけすぎちゃったかな。……まァ、顔は物凄く好みだ」
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